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東京高等裁判所 昭和53年(ネ)1237号 判決 1979年2月27日

控訴人

長野トヨタ自動車株式会社

右代表者

宇都宮元

控訴人

長野トヨペツト株式会社

右代表者

内山俊男

右両名訴訟代理人

鈴木敏夫

外一名

被控訴人

井口太一

外五名

右六名訴訟代理人

土肥倫之

外二名

主文

本件各控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  控訴人らは、「原判決中被控訴人ら関係部分を取消す。控訴人長野トヨタ自動車株式会社に対し、被控訴人井口太一は原判決添附別紙目録記載1の、同大槻奉生は同2の、同白鳥誠は同3の、同滝沢利治は同4の各自動車を引渡せ。控訴人長野トヨペツト株式会社に対し、被控訴人鈴木明生は別紙目録記載5の、同白鳥初男は同6の各自動車を引渡せ。訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは、主文同旨の判決を求めた。<以下、事実省略>

理由

一当裁判所は、控訴人らの本訴請求をいずれも棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり付加するほかは、原判決の理由説示と同一であるから、これをここに引用する。

1  <省略>

2  同二一枚目裏七行目「といわなければならない。」の次に以下のとおり加える。

「この理は、たとい控訴人らが増田屋との売買にあたり、本件各自動車の所有権を代金完済まで留保しており、その留保所有権に基づいて本訴請求をするものであるとしても変るものではない(ちなみに、<証拠>によれば、右所有権留保の点をうかがわせるに足りる)。

即ち、この場合は、いわゆる流通過程における所有権留保の問題として、根本的には、売主である控訴人らの自動車所有権が買主増田屋から被控訴人らに転売された過程で何人に帰属するかが問われるべきであるけれども、その問題はさて措き、これを権利乱用の成否の場面で考えてみるに、結局は買主の無資力による危険を売主に負担させるべきか、転買人に負担させるべきかを、衡平の見地から決するほかはないといわなければならない。そこで勘案するに、控訴人らには、増田屋の被控訴人らへの転売について格別の協力行為をうかがわせるに足りる証拠はないけれども、被控訴人らにおいてそれぞれ自動車を買得するにあたり、増田屋から所有権留保の特約を付せられたことはなく、いわんや控訴人らの増田屋に対する所有権留保の特約の事実を知つていたり、知らなかつたとしても知るべきであつたという特段の事情の認められない(被控訴人らは各買受け自動車を取引の目的物件として取扱うような業者ではなく、単純なユーザーであることを考慮すると、本件各自動車の登録上の所有権名義に意を用いなかつたとしても、ただそれだけでは被控訴人らの過失として重視することは適当でない)本件にあつては、自動車の引渡しを受け、代金も完済した被控訴人らが、それにもかかわらず自己の占有下にある自動車を無条件で引きあげられるということは、文字通り不測の損害というに値する。これに対して、控訴人らは、いやしくもその営業政策として転売を容認して売却した以上、情を知らない転買人たる被控訴人らに対しては、できるだけ円滑に完全な自動車所有権の移転のために配慮するのが本筋であつて、買主たる増田屋の倒産によつて売買代金債権の回収が不能になつたからといつて、今更自己の留保所有権を盾にとつてその引渡しを求めるのは筋違いというべく、もともと控訴人らの所有権留保は、売買代金債権の担保的機能を有するにすぎないものと解せられないではないのであるから、控訴人らは、事前事後に買主の選択ないし監督に意を用い、また然るべき手形の確保や転売債権の譲渡等他に代金債権担保の方策をあわせ構ずることによつて、不測の損害を避けるべきであつたし、そうすることは可能な立場にあるものといわなければならない。以上衡平の観点から彼此考えあわせると、権利乱用の法理の認むべき所以は明らかである。

二よつて、控訴人らの被控訴人らに対する本訴各請求をいずれも失当として棄却した原判決は相当であり、本件各控訴はいずれも棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、九三条、八九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(西村宏一 宮崎富哉 高野耕一)

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